福岡市長 高島宗一郎さんインタビュー

制度の「古いOS」を
アップデートする。
都市の成長と
子育て支援の好循環

福岡市長 高島宗一郎さん

アカチャンホンポの「子育て満足度ランキング」において、政令指定都市1位を獲得した福岡市。これほどまでに子育て世代から高い支持を集める背景には、どのような戦略や思いがあるのでしょうか。福岡市の高島市長にインタビューを行い、福岡市が実践する子育て支援の考え方から、独自の施策、そして日本全体の子育て政策へのビジョンまで詳しく伺いました。

成長の果実を未来へ投資する。税収1.6倍に対し、子育て関連予算は2.5倍へ

―この度は「子育て満足度ランキング」政令指定都市1位、おめでとうございます。このような高い評価を得た要因について、市長はどのようにお考えですか?

とても嬉しいです、ありがとうございます。福岡市では、「都市の成長と生活の質の向上の好循環」を都市経営の基本戦略に掲げています。街を元気にして、企業の収益や個人の所得を増やすことで豊かな税収を確保し、その豊かになった財源を使って子育て支援をしっかり行っていくという考え方です。
実際、この15年間で福岡市の税収自体は1.6倍に増えましたが、子育て・教育予算はさらに手厚く2.5倍に増やしています。第2子以降の保育料無償化や、障がいのあるお子さんを育てているご家族が休息をとれる「レスパイトケア」の確保など、国に先駆けた取り組みを行ってきたことが、福岡市での「子育てのしやすさ」を感じていただける要因になったのではないかと思います。福岡市のアンケート調査においても、「福岡市は子育てしやすいまち」と感じていただける保護者の割合が、この15年で20%以上増え、子育て環境満足度は85%まで上昇しました。

福岡市長 高島宗一郎さん

便利の裏にある目的。「おむつと安心定期便」が地域と子育て世帯をつなぐ

―福岡市独自の施策といえば、「おむつと安心定期便」が非常にユニークですよね。指定の施設で二次元コードを読み取ってスタンプを貯めることで、おむつなどの育児グッズがもらえる仕組みですが、こちらの施策に込めたメッセージをお聞かせください。

おむつと安心定期便

実はこの仕組みには、とても重要な意味が込められています。何もせずに自動的に毎月おむつやおしりふきが自宅に届く方が、親御さんにとっては楽かもしれません。しかし、あえて外に出て電子スタンプをもらう仕組みにすることで、「一人で悩まなくても相談できる場所がある」ことを知ってもらい、地域の支援施設に足を運ぶきっかけを作りたいんです。
そして最も重要なのが、「見えないリスクの発見」です。これだけ便利なサービスがあるにもかかわらず利用されないご家庭があった場合、情報が届かない環境にあるか、あるいはネグレクトのように育児に関心を持てていないなど、何らかの事情を抱えている可能性があります。外に出て第三者と触れ合う仕組みにすることで、こうした「見えないリスク」をいち早く察知でき、必要なご家庭に行政のマンパワーを集中させてケアを行うことができます。だからこそ、単なる定期便ではなく「安心」という言葉を名前につけているんです。

「スマホの中にサービスを」子育て世帯に寄り添う行政DX(デジタル化)

―福岡市では、現場のニーズを的確に捉え、スピード感を持ってDXを進められています。例えば、一時預かりの空き状況がリアルタイムで見られるそうですが、子育て世帯の利便性を高めるテクノロジーの活用についてどうお考えですか?

10年前、20年前の子育てと、今年の子育てでは、取り巻く環境が全く違います。今は誰もが「スマホを片手に持ちながら育児をする時代」です。数年前であれば、一時預かりを利用するために一件一件保育園に電話をして空き状況を確認しなければなりませんでしたが、テクノロジーの進化により、今ではスマホひとつで簡単に検索できるようになりました。
行政としても、より利便性の高いサービスを市民に提供するため、日々進歩する技術を積極的に取り入れていく必要があります。子育て世帯の一層の負担軽減につなげていくためにも、福岡市はこれからも果敢にチャレンジを続けていきます。

スマホひとつで簡単に検索

都市の成長と「住み続けたい」を後押しする住宅・家族支援

―天神ビッグバンや博多コネクティッドなど都市開発が進む一方で、住宅価格や家賃の上昇が見受けられます。都市の成長と、子育て世帯が住み続けられる環境を、どのように両立していくのでしょうか。

福岡市は国内外から多くの企業が集積し、人口増加率も政令市でトップになるなど、まちが成長し続けていますが、その結果として地価が上がり、都心部を中心に家賃などの住居費も上昇傾向にあります。子どもの成長とともに広い家へ住み替えたいと思った時に、住居費を考慮して市外への転居を検討されるご家庭もあると思います。福岡市では、そうした中でも「福岡市に住み続けたい」と考えるご家庭の思いを後押しするため、市内での住み替え費用に対する助成をスタートしています。
また、共働き世帯が増える中、夫婦ともに出張が重なったり、体調を崩したりすることもあります。そうした時に近くに助けてくれる存在がいると心強く、より子育てがしやすいですよね。そこで、親世代との同居・近居を支援する制度も同時にスタートしました。

住み替え費用に対する助成をスタート

福岡市は、転勤などによる世帯の流入が非常に多い街です。そのため、核家族も多く、何かあったときのちょっとしたフォローが、同居や近居世帯と比べて難しいところがあります。そうした意味で、行政が親族に代わって細やかなケアを行っていくニーズは、より高まっていると感じています。
一方で、すべてを行政サービスで賄えるわけではありません。そこで、同居や近居を希望する子育て世帯に対しては、そうした暮らし方を後押しする取り組みも併せて行うなど、福岡市では、住宅施策と子育て支援を一体的に推進しています。

現場のリアルな声で国を動かす。自治体が先行する意味

―福岡市では国に先駆けてさまざまな施策を進めています。基礎自治体が先行することには、どのような意味があるのでしょうか。

日本では、住民に関する細かな情報は基礎自治体が持っています。だからこそ、子育ての現場に最も近い自治体が、リアルなニーズを把握し、いち早く対応していくことが重要だと考えています。
一方で、自治体によって人口規模が異なる中、子育て支援サービスにも差異が生まれています。首長が子育てに力を入れている自治体と、そうでない自治体との間にも差が出てきており、生まれた場所や育つ場所によって、受けられる子育てサービスに格差があるという現状があります。

福岡市長 高島宗一郎さん

私は、本当に切実な子育てのニーズは、やはり現場でしか汲み取れないと思っています。だからこそ福岡市では現場の声をもとに、必要な施策を先行して実施する姿を示してきました。
例えば、就労要件を問わず、保育所などを定期的に利用できる「こども誰でも通園制度」では、福岡市が国よりも利用枠を大幅に上乗せして取り組みを始めたことで、その実績をもとに国に対して要望することができています。障がいを持つお子さんのご家族に対するレスパイトケアについても同様です。福岡市が先行して取り組み、その実施内容に国が追随する形になってきています。
このように、自治体の先行した取り組みを通じて、現場のリアルなニーズをしっかりと国に伝えていく。そして、どこに住んでいても同じように子育てサービスを受けられるよう、国が必要な財政支援を行う仕組みへと変えていく。そのためにも、今後も福岡市が率先して先行実績をつくり、国へ働きかけていきたいと思っています。

子育ての「当たり前」は変化する、制度の「古いOS」をアップデートしたい

―最後に、日本全体の子育て支援をどのように変えていきたいと考えていますか。

今の国の制度は、スマートフォンで例えるなら「古いOS」のままなんです。
例えば、かつては多世代で同居し、親が家で子どもを見ることが当たり前という前提があったため、この前提に即したOS(制度)がつくられました。しかし今は、共働きの核家族世帯が当たり前になり、近くに頼れる親族が住んでいない家庭も少なくありません。そうした今の時代の「当たり前」に合わせて、どのような家庭でも安心して子どもを産み、育てることができる制度に変えていくべきだと思います。
それでなければ、男性も女性もできるだけ働きながら、一方で子どもを産み、自分たちだけで立派に育てろというのは、難しい話です。
やはり、国が理想論として掲げていることと、それを具体的な政策として現場に落とし込んでいくときには、ギャップがあります。そこは自治体側から厳しく指摘しながら、今の時代に合った新しいOS(制度)へアップデートしていかなければなりません。
今この時代を生きる若い人たちが、「子どもを迎えたい。そして安心して育てられる」と思えるような社会を、福岡市という現場から声を上げ、つくっていきたいと思っています。

福岡市長 高島宗一郎さん

―今回のお話を通じて、子育てを取り巻く環境やニーズの変化に合わせて、行政サービスも柔軟に変わっていくことが重要だと改めて感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。一緒に頑張りましょう。

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