江東区長 大久保朋果さんインタビュー

社会全体で子育てを応援し、
「子育ては楽しい」と
心から実感できるまちづくりへ

江東区長 大久保朋果さん

近年、湾岸エリアを中心とした新しい開発が進み、若い子育て世帯の流入が続いている江東区。今回は、大久保区長から江東区の子育て環境の現状や独自の取り組みについて深くお話を伺いました。ご自身の経験や娘さんからの言葉を原点とする熱い思いと、「子育て罰」という言葉をなくし「子育ては幸せ」と実感できる社会の実現に向けた、具体的なビジョンをお届けします。

新旧が交差する温かい地域性、核家族化が進む現代で「孤育て」を防ぐために

―江東区の街を歩いていると、ベビーカーを押している方や、赤ちゃん連れのご家族とたくさんすれ違いました。区長の目線から見て、江東区はどのような特徴を持つ街でしょうか?

江東区は広く言うと、大きく3つの地域に分かれています。元々、深川区と城東区が合体して江東区になった歴史があり、江戸の下町の風情が残る深川地区、かつて農村地や江戸の庶民の遊び所であった城東地区、そして埋め立てにより新しい開発が進んでいる臨海地区という3つの顔を持っています。 それぞれの地域に特色がありながらも、新しい街の発展に伴って若い世代の方々が続々と移り住んでいらっしゃいます。街を歩いていると子どもたちの笑い声が響いており、新旧の文化が交差する、とても温かい街だと感じています。

江東区長 大久保朋果さん

―子育て世帯がどんどん流入し、ファミリー層が増加している江東区ですが、そうした特性の中で見えてきた子育ての課題や、施策を検討する上で強く意識されていることはありますか?

特にこうした都心部では核家族化が進んでおり、お母さんがお子さんと2人きりで子育てを抱え込んでしまうことが多いのが現状です。最近はお父さんも育児に関わるようになっていますが、それでも親御さんが孤独に陥りやすい環境があります。 私自身も経験がありますが、赤ちゃんと2人きりでいると、もちろん我が子はすごく可愛くて大切なんですが、赤ちゃんはまだ言葉をしゃべるわけでも、意思疎通ができるわけでもありません。そうした中でずっと一緒にいると、何かすごく追い詰められたような気持ちになることがあるんです。だからこそ、子育てをする親御さんを孤独にさせず、「みんなで見守り、みんなで子育てをする社会」をどう築いていくかが、東京における子育ての大きな課題だと捉えています。

歩いて行ける距離に安心を。都内最多を誇る「子ども家庭支援センター(みずべ)」

―そのような「孤独な子育て」という課題に対し、他の自治体にもぜひ知ってほしいと感じている、江東区ならではの取り組みを教えてください。

江東区の大きな特徴として、「子ども家庭支援センター(愛称みずべ)」の整備に力を入れています。これは親子が遊びに行けるひろばがあったり、子育てに関する相談ができたりする施設なのですが、江東区は水と緑の街なので「みずべ」という愛称をつけています。 みずべは現在、区内に8箇所あり、これは東京23区で最多の数です。ベビーカーを押して歩いていける範囲に1箇所あることを目指してずっと整備を進めてきました。親御さんが何か困った時にすぐに「みずべ」に行って相談でき、同じお母さん同士、お父さん同士で交流もできますし、地域の方々がみずべの運営に関わってくれているので、地域の方とのつながりもつくれます。今後はさらに2箇所整備して合計10箇所にする予定です。いつでも気軽に相談できる場を作ることは、子育ての悩みを軽減するために絶対にやっていきたい施策です。

―実は昨日、有明の子ども家庭支援センターを見学させていただきました。職員の方が来られたお子さんの名前を呼んで声をかけており、日常的に通われている様子が伝わってきて、江東区に引っ越してきたくなるような素敵な空間でした。

ありがとうございます。乳幼児を育てている最初は、どうしてもお子さんと部屋に閉じこもりがちになり、全部自分で抱え込んで辛くなってしまうことがあります。だからこそ、「何か困った時に気軽に助けを求めていいんだよ」「あなただけじゃなくて、みんなで見守っているからね」と伝えられる場所を、一つでも多く増やしていきたいのです。

子ども家庭支援センター(みずべ)

情報と体験の格差をなくす。アプリ導入や多彩な体験プログラムの提供

―センター訪問時、昨年導入された「こうとうおやこ親子手帳」というアプリのおかげで、区民の皆様に情報が届きやすくなったという現場の声もお聞きしました。

昨年の12月に導入したアプリですね。登録していただくと、年齢に応じた必要な情報がプッシュ通知で届く仕組みになっています。実は最新の区民アンケートで、「行政の子育て支援サービスの情報が届きづらい」という区民の声が、このアプリ導入後に13ポイントも減少しました。今の親御さんはスマホで情報を得る時代ですから、非常に効果的だったと感じています。妊娠中からの早い段階からつながりを持ち、切れ目のない支援につなげていきたいですね。

―情報が届きやすくなったことで、支援内容そのものへの期待も高まっているかと思います。特に親御さんの関心が強い『経済的な負担の軽減』などについては、どのようなお考えでしょうか?

子育てには経済的な負担が大きいため、給食費の無償化に続いて、今年度から修学旅行の無償化にも取り組んでいます。 また、私は子どもたちに多様な経験をしてほしいと強く願っています。子どもの頃の経験は一生の記憶に残りますが、経済的な格差やご両親の忙しさによって、経験できる子とできない子の差が生まれてしまうのは非常に勿体ないことです。そのため、区立小・中学生を対象に、青海にある「東京グローバルゲートウェイ」での英語体験、有明に劇場がある劇団四季の観劇、さらには都内最大級となる辰巳のアイスアリーナでの体験など、区内にあるさまざまな施設を活かして、全ての子どもたちが平等に素晴らしい体験を積めるような仕組みづくりにも力を入れています。

区民に最も近い存在として。若手職員の声を活かす「こそだてアガるLAB」

―素晴らしい施策の数々ですが、それらを作っていく上で、子育て世帯のリアルな声や考えをどのように反映されているのでしょうか?

区役所というのは、住民の方に一番身近な行政組織です。保健所や保健相談所での母子手帳の交付や両親学級から始まり、様々な節目で直接ご家庭と関わることができます。国や東京都は制度を作っても、直接親御さんたちとやり取りする機会はなかなかありません。だからこそ、職員が直接やり取りをして得たお悩みや、現場で接して感じたリアルな感覚を大切にしています。 また、私自身の子育て経験も少し時間が経ってしまっているので、今の若い世代の当事者意識を取り入れるために、今年から「こそだてアガるLAB」という取り組みを始めました。これは少子化対策を考える部長級の会議体と合わせて実施する、若い世代の職員がアイデアベースで政策を発案できるワークショップです。当事者である若い職員の声から、さらに新しい施策を生み出していきたいと考えています。

「子育て罰」ではなく、社会全体で子育てを応援する「幸せのリターン」を目指して

―この記事は全国の自治体の方々にも読んでいただきます。江東区の取り組みを通じて、全国へどのような子育て環境を広げていきたいとお考えですか?

実は、私が政治家を志した大きな理由の一つは、私の娘からの言葉でした。私には娘が2人おり、自分自身は子育てをとても幸せに感じていました。しかし、娘が高校生の頃に「今の時代、私たちがそんなに簡単に結婚や出産を考えられる世の中じゃない」と言われました。私自身、東京都で子育てに関する施策に携わり、制度や支援は広がっているはずだと思っていました。それなのに、若い人たちが「安心して子どもを産み育てたい」と思える環境になっていないことに大変なショックを受けました。
世間では「子育て罰」というような悲しい言葉が使われることもありますが、私は本来、子育てはすごく楽しくて幸せなことだと思っています。もちろん大変なことや不安なこともたくさんありますが、それ以上に楽しさや幸せが上回る子育てであって欲しいと思います。「子育ては本当に楽しくて幸せなんだよ」ということを、若い世代の方々に感じてもらいたいのです。 これは江東区だけで解決できる問題ではありません。全国の自治体や東京都、国も一緒になって、若い人が安心して子どもを産み育てられ、しかもそれが「楽しい」「幸せ」と思える世の中にしていきたいと強く思っています。

江東区長 大久保朋果さん

―最後に、江東区のこれからの課題や、挑戦していきたいビジョンをお聞かせください。

子育てをしたいと思った方が、希望通りに結婚や出産に踏み出せる世の中にすることです。そのためには、「みずべ」のような伴走支援の仕組み、経済的負担を軽減する仕組み、そして子どもが多様なことにチャレンジできる仕組みを総合的に作っていく必要があります。 また、物価や家賃の高騰という課題に対しても、今年初めて区営住宅に「子育て枠」を設けるなど、安心して生活できる環境を整える取り組みを始めました。行政だけでなく、事業者の皆様や区民の皆様の力を借りながら、社会全体で温かく子育てを見守る雰囲気を作っていきたいです。「子どもを育ててよかった」「幸せだな」という親の気持ちは、必ずお子さんにも伝わり、お子さん自身も幸せに育っていくと信じています。

―街全体がポジティブに子育てを応援し、親から子へ、そして社会へと「幸せのリターン」が循環していく姿に、とてもワクワクしました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

記事一覧へ